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仙台地方裁判所 平成9年(ワ)65号・平9年(ワ)379号 判決

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  第六五号事件

1  被告Y1社は、原告X1社に対し、金二九九五万三〇二三円及びこれに対する平成九年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告Y2社は、原告X1社に対し、金三一九五万三〇二三円及びうち金二九九五万三〇二三円に対する平成八年七月二九日から、うち金二〇〇万円に対する平成九年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第三七九号事件

1  被告Y1社は、原告X2社に対し、金三二九五万三〇二三円及びこれに対する平成九年四月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告Y2社は、原告X2社に対し、金三四九五万三〇二三円及びうち金三二九五万三〇二三円に対する平成八年七月二九日から、うち金二〇〇万円に対する平成九年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告X1社は、飲食店を経営する会社であり、原告X2社は、原告X1社と同族会社の関係にあり、食材等を入手して原告X1社に販売することを業とする会社である。

(二) 被告Y1社は、水産物及びその加工品の仲卸を業とする会社であり、被告Y2社は、水産物の輸入等を業とする会社である。

2  本件事故発生の経緯等

(一) 本件事故の発生

原告X1社の経営する飲食店舗「○○」チェーン(以下「○○」という。)の一つである「○○中倉店」(以下「中倉店」という。)において、平成八年七月二九日(以下平成八年については月日のみを表記する。)に来客に提供した料理により二三名が罹患する集団食中毒事故(以下「本件食中毒」もしくは「本件事故」という。)が発生したため、同店は、同月三〇日、営業を自粛し、同月三一日から八月四日までの五日間、仙台市若林保健所(以下「若林保健所」という。)より営業停止処分を受けた。

(二) 本件食中毒の原因

若林保健所は、本件事故発生後、中倉店に対して臨検検査を行い、店内に残存した食材等を収去して、事故原因について調査を行った。

その結果、本件事故は、原告X2社が七月二九日に被告Y1社から買い受けた生うに(以下「本件生うに」という。)に付着した腸炎ビブリオ菌によるものであることが明らかとなった。

(三) 本件生うにの欠陥

(1) 本件生うには、被告Y2社が中華人民共和国(以下「中国」という。)から輸入して、七月二九日未明、仙台市中央卸売市場(以下「中央市場」という。)に搬入したものの一部である。

被告Y1社は、本件生うに二四枚(木箱一箱入りのものを「一枚」という。)を入手し、原告X2社は、これを同日午前八時三〇分ころ、右市場内の同被告の店舗において買い受け、同九時ころ、原告X1社に売り渡した。

(2) それまでの間、原告X2社は、右により買い受けた本件生うにを、氷を入れた入れ物に入れて保冷シートで覆い、これをパネルバンの荷台に載せて中倉店まで運搬し、原告X1社は、右生うにの到着後、直ちにそのまま冷蔵庫に約三度の状態に保ったまま収納した。

原告X1社は、同日午後四時三〇分ころから、刺身盛り合わせに本件生うにを盛って、これを来客に提供したが、その際、原告X1社においては、右生うにを調理するなどの手を全く加えていない。

したがって、原告X2社が右生うにを買い受けて以降、これに腸炎ビブリオ菌が付着するようなことはないし、右生うにを、それ以前に既に付着していた腸炎ビブリオ菌をさらに増殖させるような環境に置いたこともない。

(3) 以上からすれば、原告X2社が本件生うにを買い受けた時点において、既に、本件生うには、通常に食した場合に食中毒を誘発するような状態にあったものであり、食品としての瑕疵ないし欠陥があったものといわなければならない。

3  被告らの原告X1社に対する責任

(一) 被告Y1社の責任…不法行為

被告Y1社は、水産物仲卸業者として、通常に食した場合に食中毒を誘発するような生うにを第三者に売り渡してはならない注意義務があるのにこれを怠り、本件生うにを買い受けてから原告X2社に販売するまでの間に、他の水産物等から右生うにに腸炎ビブリオ菌を付着させ、さらに、中央市場内において三度以下の冷蔵庫内に収納しなかったため、付着させた腸炎ビブリオ菌を増殖させ、その結果、通常に食した場合に食中毒を誘発するような生うにを原告X2社に売り渡したものである。

したがって、被告Y1社は、不法行為に基づき、本件食中毒により原告X1社が被った後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告Y2社の責任

(1) 不法行為

被告Y2社は、海産物の輸入業者として、通常に食した場合に食中毒を誘発するような生うにを輸入し、流通に置いてはならない注意義務があるのにこれを怠り、製造工場における本件生うにの製造方法及び原料の集荷先、集荷方法の衛生状態について十分な監視、指導をせず、本件生うにの殺菌、滅菌をさせることに全く思いも至らず、また、特に夏場の海水温の高い地帯の生うにであるから、輸入に先立ち製造工場で腸炎ビブリオ菌等の十分な製品検査をすべきであったのにこれを施行せず、漫然、腸炎ビブリオ菌が付着した本件生うにを輸入し、流通に置いたものであるから、不法行為に基づき、本件食中毒により原告X1社が被った後記損害を賠償する責任がある。

(2) 製造物責任

被告Y2社が輸入した時点で、本件生うにには腸炎ビブリオ菌が付着していたところ、右生うには、工具、器械類を使用して製造されるものであるから、製造物に該当する。そして、右生うには、通常に食した場合に食中毒を誘発するような状態にあったものであり、製造物としての欠陥がある。

したがって、被告Y2社は、製造物責任法三条に基づき、本件食中毒により原告X1社が被った後記損害を賠償する責任がある。

4  被告らの原告X2社に対する責任

(一) 被告Y1社の責任…不完全履行もしくは瑕疵担保責任

前記2(三)のとおり、被告Y1社は、原告X2社に対し、通常に食した場合に食中毒を誘発するような状態にある本件生うにを売り渡したものであるから、被告Y1社には、不完全履行もしくは瑕疵担保責任に基づき、本件食中毒により原告X2社が被った後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告Y2社の責任…不法行為及び製造物責任

前記3(二)と同じ。

5  損害

(一) 原告X1社の損害

(1) 原告X1社は、本件事故により、左記のとおりの損害を被った。

① 患者への支払 九五万三〇五七円

原告X1社は、本件事故による食中毒患者二三名に対して、その治療費及び慰謝料等の損害賠償として、合計九五万三〇五七円を支払った。

② お詫び新聞広告 四五万〇〇〇〇円

原告X1社は、本件事故後の八月一五日付け河北新報紙上に、右事故につき謝罪する旨の広告を掲載し、四五万円の出費を余儀なくされた。

③ 本件事故対応のための経費 一五八万三〇〇〇円

原告X1社は、本件事故の発生により、食中毒患者に対する見舞いや賠償のための準備、その対処についてコンサルタントに助言を求める等のため、合計一五八万三〇〇〇円の出費を余儀なくされた。

④ 信用毀損による損害 二九九六万六九六六円

ア 中倉店の八月及び九月の粗利益減少損害 七六九万一七三九円

イ ○○の八月から一〇月までの右アを除く粗利益減少損害 二五一一万八二一三円

ウ 慰謝料 一〇〇〇万〇〇〇〇円

原告X1社は、本件事故まで食中毒事故は全く起こしたことがなかったものであり、本件事故による中倉店を含む○○の信用の低下及びこれによる粗利益の減少は著しいものがある。したがって、少なくとも、右アないしウの合計額の七〇パーセントである二九九六万六九六六円は、本件事故により原告X1社が被った損害というべきである。

⑤ 弁護士費用(被告Y2社に対し) 二〇〇万〇〇〇〇円

右合計額は、被告Y2社については、三四九五万三〇二三円、被告Y1社については、三二九五万三〇二三円となる。

(2) 原告X2社による損害の填補

原告X2社は、平成九年五月一五日、原告X1社に対し、本件事故に基づく損害金の内金として、三〇〇万円を支払った。

(二) 原告X2社の損害

原告X1社は、本件事故により、右(一)の損害を被ったところ、原告X2社が、本件生うにを被告Y1社から買い受けて原告X1社に売り渡し、かつ、原告X2社が原告X1社に対して本件事故により原告X1社の被った損害を一部填補したことからすれば、右事故により原告X1社の被った損害は、ひいては原告X2社の損害でもあるというべきである。

したがって、本件事故により原告X2社が被った損害は、右(一)(1)のとおり、被告Y2社に対しては三四九五万三〇二三円、被告Y1社に対しては三二九五万三〇二三円となる。

6  よって、(一)原告X1社は、被告Y1社に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、二九九五万三〇二三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成九年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、被告Y2社に対しては不法行為又は製造物責任法三条による損害賠償請求権に基づき、三一九五万三〇二三円及びうち二九九五万三〇二三円に対する不法行為ないし引渡しの日である平成八年七月二九日から、うち二〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である平成九年二月二日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を(第六五号事件)、(二)原告X2社は、被告Y1社に対しては不完全履行もしくは瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、三二九五万三〇二三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成九年四月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、被告Y2社に対しては不法行為又は製造物責任法三条による損害賠償請求権に基づき、三四九五万三〇二三円及びうち三二九五万三〇二三円に対する不法行為ないし引渡しの日である平成八年七月二九日から、うち二〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である平成九年四月二七日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を(第三七九号事件)、各求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2(一)のうち、原告X1社が七月三〇日に中倉店の営業を自粛したことは不知、その余は認める。

(二)  同(二)は争う。

(三)(1)  同(三)(1)は認める(ただし、被告Y1社が原告X2社に本件生うに二四枚を引き渡したのは午前八時ころであった。)。

(2) 同(2)は不知ないし争う。

3  同3及び4のうち、被告らが、通常に食した場合に食中毒を誘発するような生うにを売り渡してはならないとの注意義務があることは認めるが、その余は否認ないし争う。

4  同5は不知ないし争う。

三  被告らの反論

1  被告Y1社

(一) 被告Y1社は、中央市場において、七月二九日午前六時四〇分ころから始まった競りにより、被告Y2社により輸入された生うにのうち、二四枚(二本。一二枚を重ねて梱包したものを「一本」と称する。)を自ら競り落とし、八四枚(七本)を他の仲買人から買い受けた。

右買受け後、被告Y1社は、右市場内の低温売場にあった右生うにを、同市場内にある同被告の売場の冷凍ケースに運び込んで保管し、同八時ころまでにはその全てについて売却を終えた。

(二) 本件生うには、同被告が入手した際には一本ごとに梱包された状態のものであり、これをそのまま原告X2社に売り渡したものであって、同被告が他の水産物に付着していた腸炎ビブリオ菌を右生うにに付着させたということはあり得ない。

また、本件生うには、常時一五度以下の低温に保たれた前記中央市場内の低温売場に保管されていたものであるし、被告Y1社においても、買い受けた生うにを保管する際、床に直接置くようなことはせず、零下三度程度の低温に保たれた右冷凍ケースの中に陳列していた。したがって、被告Y1社が本件生うにに付着していた腸炎ビブリオ菌を増殖させたということもあり得ない。

(三) 以上の事情からすれば、被告Y1社は、通常に食した場合に食中毒を誘発するような、すなわち瑕疵のある本件生うにを原告X2社に売り渡したことはなく、したがって、これを前提とする原告らの主張は理由がない。

2  被告Y2社

(一) 不法行為について

(1) 被告Y2社は、中国大連市のa水産食品有限公司(以下「a水産」という。)の工場を視察し、その厳重な温度管理、衛生管理状況を確認した上で生うにを輸入している。

(2) また、七月二八日に輸入した生うにについては、新東京国際空港(以下「成田空港」という。)に陸揚げした際、財団法人千葉県薬剤師会検査センターの技師により食品衛生法上の検査がなされ、さらに被告Y2社においても腸炎ビブリオ菌の有無についての自主検査を実施したほか、東京中央卸売市場築地市場(以下「築地市場」という。)に搬入した分については、同市場における独自の検査も行われたが、いずれも腸炎ビブリオ菌は検出されなかったのであって、被告Y2社は、製品の安全を確認した上で流通に置いたのである。

(3) さらに、右生うには、冷凍車によって成田空港から中央市場まで運搬されたものである上、同市場に到着後は、一五度に保たれた低温売場において保管されていたものであって、その運送及び保管の体制に何ら問題はなかった。

しかも、本件生うには、a水産の工場で梱包されてから原告X2社の手に渡るまでの間、梱包されたままの荷姿で搬送されたのであって、人の手に直接触れることや、他の食品から腸炎ビブリオ菌が付着することもあり得ない。

(4) 以上からすれば、被告Y2社は、通常に食した場合に食中毒を誘発するようなものとして本件生うにを流通に置いたものではない。

(二) 製造物責任について

(1) 製造物責任法一条が「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合」と規定し、また、同法五条一項が「被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時」と規定していることからすれば、同法は、自然人が損害賠償を請求することを前提としているものと解すべきであり、このように理解することが、同法が一般消費者の保護を主眼として制定されたという経緯及び立法趣旨にも合致するというべきである。

とすれば、法人である原告らが、同法に基づき損害賠償を請求することは失当である。

(2) また、製造物責任法二条一項によれば、「製造物」とは「製造又は加工された動産」であるところ、本件生うには、殻から取り出されて箱に並べられ、冷蔵されるだけの製品であって、原材料に手を加えて新たな物品を作り出したものでも、また、原材料に工作を加えて新たな属性を付加し価値を加えたものでもないことからすれば、右製造物には該当せず、この点からも、原告らが、同法に基づき損害賠償を請求することは失当である。

(3) さらに、本件生うにに、通常に食した場合に食中毒を誘発するような性質、すなわち欠陥があったものでないことは、右(一)のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  本件事故に至る経緯等

請求原因1の事実、同2のうち、本件事故が発生し、中倉店が営業停止処分を受けたこと、本件生うには、被告Y2社が中国から輸入したものを、中央市場において被告Y1社が入手し、さらに、原告X2社に売り渡したものであることの各事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、証拠(甲一号証の1及び2、二号証の1ないし3、三ないし八号証、九号証の1ないし6、一三ないし三六号証、四四号証、四五号証、四七号証、五一号証、乙一ないし一〇号証、丙二ないし二〇号証、証人D、同E及び同Fの各証言、被告Y2社代表者C及び同Y1社代表者Bの各尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故に至る経緯等について、以下の事実が認められる。

1  本件生うにの商品化の過程等

被告Y2社は、水産物の輸入を業とするところ、取扱商品のほとんどは生うにであり、その輸入元は、主として中国である。

そして、本件生うには、同国大連市のa水産の工場において商品化されたものであるところ、その過程等は以下のとおりである。

(一) 従業員に対する衛生管理体制等

a水産の工場において、従業員は、白衣、マスク、ゴム手袋、帽子等を着用した上、入場する際には、入口において手を洗い、洗浄後に殺菌温風装置による手の消毒処理をするなどの衛生管理が行われている。

(二) 本件生うにの商品化の過程

(1) 生うには、殻のついた状態で工場に搬入され、温度が零度程度に保たれた冷蔵庫内に保管される。

(2) その後、右状態の生うにを、右冷蔵庫内から、洗浄や盛り付けの作業をするため、一〇ないし一四度程度に保たれた部屋に運び込み、その殻を割って中身を取り出した上、取り出した中身をみょうばん水(みょうばんを塩水に溶かしたもの。みょうばん水は、桶様の容器に入れられ、その中には生うにの入った小さな容器とともに、ビニール袋に入れた氷が浮んでおり、そうすることにより、その水温は一度ないし二度程度に保たれている。)につけて洗浄し、洗浄後の生うにをピンセット様の器具を用い取り分けて板(木箱)の上に載せ、プラスチック製のふたをする。

(3) 右生うにを一二枚重ね、その最上部に板製のふたをした上、ひもでしばって一本として梱包するとともに、さらに、一二本の生うにを二列六行に並べ、その隙間に冷却剤を挿入してビニール袋に入れた上、これを、内側に発泡スチロールが裏打ちされた段ボール箱に梱包する。

(4) 本件生うには、右のとおり段ボール箱に梱包された荷姿で出荷され、輸入されたものである。

2  本件生うにの輸入経緯等

(一) 被告Y2社は、a水産を輸入元として、生うにを輸入しており、右輸入生うにに「Y2社ブランド生うに」の名称を付して日本国内において販売していたところ、七月二八日、本件生うにを含む合計六三九三枚の生うにを輸入した。

右生うには、同日午後一時ころ中国大連空港を出発した航空便で運ばれ、同日午後三時四七分ころ成田空港に到着した。

(二) 生うにに対する検査等

(1) 食品衛生法に基づく検査等

右生うにについては、成田空港に到着後、直ちに、食品衛生法に基づいて国が財団法人千葉県薬剤師会検査センターに委託して行う検査及び被告Y2社が同センターに依頼して自主的に行う検査が、合計七枚の生うにを抽出して行われた。

しかし、そのいずれからも、腸炎ビブリオ菌は検出されなかった。

(2) その他の検査

右検査等を受けた後、右生うには、成田空港から全国各地の市場へ輸送され、このうち、築地市場に輸送されたもののうち二枚については、同市場が社団法人東京都食品衛生協会東京食品技術研究所に依頼して行う試験検査が行われた。しかし、右検査においても、腸炎ビブリオ菌は検出されなかった。

また、右生うにのうち、中央市場に輸送された以外のものについては、腸炎ビブリオ菌の付着による事故が発生したとの情報や指摘は一切なされていない。

(3) なお、当時は、病原大腸菌O-一五七による食中毒事故が大きな社会問題となっていたため、通常より厳しい検疫体制が採られていた。

3  中央市場への輸送

成田空港から全国各地の市場への生うにの運搬は、被告Y2社が航空集配サービスに依頼し、具体的な輸送方法については、航空集配サービスが輸送を担当する運送会社に依頼して行っていた。

被告Y2社が輸入した生うにのうち、中央市場には本件生うにを含む合計五二三枚の生うにが搬入されており、右市場への輸送を担当したのは、株式会社b運送及び株式会社c運輸の両社であるところ、右両社においては、輸送には冷凍設備を備えたトラックを用いており、その車内は零下五度程度に保たれていた。

そして、右市場に到着後、右生うには、市場内の低温売場に保管された。右売場には保冷設備があって、その温度は常時一五度程度に保たれていたとともに、内部温度が上がらないようにするため、出入扉は開放厳禁とされ、人や荷物等の出入りのため出入扉が開くと、右扉の内側の上方天井から、自動的に冷気が吹き出す設備が施されていた。

4  被告Y1社における保管の状況

(一) 七月二九日午前六時三〇分ころから生うにの競りが開始され、被告Y1社は、被告Y2社が輸入した生うにについて、二四枚(二本)を自ら競り落とし、また、他の仲買人が競り落としたもの八四枚(七本)を買い受けて入手した。そして、入手した生うにを、低温売場から、中央市場内にある被告Y1社の店舗に運び、店舗内の冷凍ケースに保管した。

右冷凍ケースは、右市場内の他の店舗においても一般的に使用されているもので、内部に保管した食品の温度が上がらないようにするため、周囲から冷気が吹き出す設備が施されており、被告Y1社においては、その内部の温度をおおむね零下三度程度に設定していた。

(二) 原告X2社が被告Y1社から買い受けた本件生うに二四枚は、一二枚重ねて梱包された状態のもの二本であり、一本ごとにビニールで梱包した状態であった。

被告Y1社は、原告X2社に本件生うにを売り渡すまでの間、右梱包を解いたことはなく、同日午前八時ころから同三〇分ころまでの間に、本件生うには、右荷姿のまま、原告X2社の取締役で同X1社の従業員であるE(以下「E」という。)に引き渡された。

本件生うには、Eが原告X2社のワゴン車を使用して中倉店まで運搬した。右ワゴン車は、前部に運転席及び助手席があり、後部に荷物を載せる構造であって、前部に通常の車載エアコンが装備されていたが、後部には冷凍設備や冷蔵庫を備えておらず、断熱シートを搭載していたに過ぎなかった。そして、七月二九日は気温が三〇度に達する大変暑い日であったにもかかわらず、右ワゴン車は、中央市場に到着した午前五時三〇分ころから右中倉店に出発する同八時四〇分ころまでの駐車中、後部のドアと横のスライド式のドアとが開け放たれたままで、外気がそのまま入り込む状態であった。

Eは、同八時五〇分ころに中倉店に到着後、本件生うにを右店舗内の冷蔵庫に保管した。右冷蔵庫内は、その室内温度が三度に設定されていたが、生うにを保存するための専用の容器はなく、本件生うには、他の食材とともに、右冷蔵庫内に置かれた。

5  本件事故の発生

原告X1社は、同日、中倉店において、刺身の盛り合わせに本件生うに等を盛り付けた上、来店した宴会客に提供したところ、そのうち三グループ二五名が食中毒を発病する本件事故が発生した。

6  本件事故発生後の経緯

(一) 若林保健所による検査

(1) 原因菌の特定、本件生うにとの関係

① 若林保健所は、七月三〇日、中倉店の立入調査を行い、まな板、調理場、使用されていた包丁等のふき取り検査を行うとともに、生うに等の食材を収去した。

本件生うにについては、摂食者に提供した残品が残っていなかったため、冷蔵庫に置かれていたもののうち一枚を収去した。

② そして、収去した食材について検査を行ったところ、本件生うにから腸炎ビブリオ菌が検出された。

食品衛生検査指針(甲五一号証)によれば、腸炎ビブリオ菌は、O(菌体)及びK(表在性)により型の分類がなされるところ、右のとおり検出された腸炎ビブリオ菌は、O4型であることは明らかとなったが、K型については不明であった。

他方、若林保健所は、来客の摂食調査も行ったところ、本件生うにを摂食したのは合計四九名、そのうち発病者数は二五名、さらに医師に届出をした人数は一二名であった。

そして、同保健所は、右摂食者うち一八名(うち発病者一三名)について糞便の検査も行ったところ、八名(うち発病者七名)から腸炎ビブリオ菌(O4:K63型)が検出された。

③ 若林保健所長は、八月二九日、仙台市健康福祉局長に対する本件事故の調査報告において、その汚染経路については、「宴会に使用した生うには当日の朝に中央市場内にて購入後すぐ車にて店まで運搬し、冷蔵庫に収納している。運搬中の温度や、冷蔵庫内の温度は不明であるので、いつ、どこで菌が増殖したのかは不明である。客に提供する前に高濃度に汚染され、宴会中にさらに汚染が進んだものと推定される。」としている。

④ さらに、同保健所は、九月一九日、原告X1社に対し、中倉店と同一食材を使用していた他の○○の店舗において食中毒発生の届出がなかったこと、中倉店で宴会料理以外の食品を食した来客についても右届出がなかったこと、そして、中倉店においては、宴会客にのみ生うにを提供したことを勘案した結果、本件食中毒の原因菌を、腸炎ビブリオ菌O4:K63型と確定し、原因食品については、本件生うにであると推定されるとの検査結果を通知した。

(2) 若林保健所による改善指導

若林保健所は、中倉店に対する立入調査の結果に基づき、七月三一日、原告X1社に対し、調理場内にじゅうたんなどの汚染の原因となるような物を置かないこと、冷蔵庫内に食材を収納する際には専用の容器に入れること(特に加熱調理しないもの)、従業員トイレのそばのシンクに手指洗浄器を設けること、ダムウェイター内の消毒等の点について、改善を指示した。

(二) 本件事故後の原告X1社の対応等

(1) 中倉店は、本件事故の翌日である七月三〇日は営業を自粛し、また、若林保健所長から、同月三一日から八月四日まで、五日間の営業停止処分を受け、さらに、右(一)(2)のとおり同保健所から指導を受けた点について改善を行った。

(2) 原告X1社は、八月一五日付け河北新報紙上において、本件事故が発生したことについて、「お客様方へのお詫び」と題する謝罪広告を掲載するとともに、原告X1社代表者や中倉店店長らが、本件事故に遭った来客を個別に訪問して謝罪するなどした上、賠償を行った。

(3) 原告X2社は、平成九年五月一五日、本件事故による損害賠償の内金として、原告X1社に対し、三〇〇万円を支払った。

二  本件事故発生の原因と被告らの責任

以上の事実を前提として、本件事故の発生について、被告らの責任が認められるか否かにつき検討する。

1  本件食中毒の原因食品

前示一6のとおり、若林保健所の検査の結果、摂食者の糞便及び本件生うにの双方から腸炎ビブリオ菌が検出されていることに照らすと、本件事故の原因となった食品は、本件生うにであると推認することができる。

2  腸炎ビブリオ菌の付着及び増殖について

(一) 腸炎ビブリオ菌の性質

甲一二号証、四八ないし五〇号証によれば、腸炎ビブリオ菌は一〇度以下では増殖できず、六〇度以上では一〇ないし三〇分程度で死滅するが、三〇ないし三七度では極めて活発に増殖するとされていること、また、三パーセント程度の食塩濃度の下では最もよく発育するされていて、このような塩分、温度等の条件さえ整えば、他の食中毒菌と比較して増殖のスピードが速く、一〇分足らずで増殖するとされていること、さらに、腸炎ビブリオ菌が存在すれば必ず食中毒を誘発するというものではなく、個体差があるため数値的な基準は定立できないものの、相当程度多数の菌を摂取したときに初めて食中毒を誘発するとされていることが認められる。

(二) 本件における腸炎ビブリオ菌の付着及び増殖について

(1) 被告Y2社による輸入及び輸送について

前示一1のとおりの本件生うにの商品化の過程からすると、a水産の工場における温度管理や衛生管理体制について、腸炎ビブリオ菌を付着させ又はこれを増殖させることを窺わせるような事情は認められない。また、前示一2のとおりの輸入の経緯等及び同3のとおりの中央市場への輸送の過程に照らすと、被告Y2社による輸入及びその後の輸送についても、同様である。

その上、仮に、本件生うにが商品化された当時から通常に食した場合に食中毒を誘発するに足るだけの腸炎ビブリオ菌が付着していたとすれば、a水産の工場で商品化され、被告Y2社により輸入された他の生うにについても、事故が発生する可能性が極めて高いというべきであるが、前示一2(二)のとおり、本件生うに以外のものについては、食中毒が発生したとの情報や指摘は一切ないし、成田空港に陸揚げされた際に行われた食品衛生法上の検査や、被告Y2社による自主検査、さらに、築地市場において行われた検査の各結果においても、腸炎ビブリオ菌は検出されていない。

以上からすれば、被告Y2社が本件生うにを輸入し、中央市場内に輸送されるまでの間において、本件生うにに通常に食した場合に食中毒を誘発するに足るだけの腸炎ビブリオ菌が付着していたと認めることはできないものというべきである。

(2) 中央市場内における保管について

前示一3のとおり、中央市場内の低温売場の内部温度は一五度程度に保たれていた。確かに、低温売場内の温度は、右(一)のとおり、腸炎ビブリオ菌が増殖できないとされる一〇度以下ではないものの、前示一1ないし3のとおり、本件生うには、段ボール箱に梱包され、しかもその中には冷却剤が入った状態で輸入されたものである上、成田空港から中央市場までは、冷凍設備を備えたトラックを用いて輸送されているのであるから、低温売場内の温度が一五度であることをもって、直ちに右保管の過程で本件生うにの温度が一五度若しくはそれに近い温度になったものと認めることはできない。また、七月二九日に被告Y2社が輸入して中央市場に搬入された生うにのうち、本件生うにを除くいずれからも腸炎ビブリオ菌による事故が発生したとの指摘等はなく、他に右市場内における管理について問題があったことを窺わせる事情も認められない。

(3) 被告Y1社における保管について

前示一4のとおり、被告Y1社は、低温売場に保管されていた本件生うにを入手し、その後、被告Y1社の店舗内においては、零下三度程度の低温に保たれた冷凍ケース内に保管していたこと、本件生うには、一本ごとにビニールで梱包された状態のまま原告X2社に売り渡されたものであること、また、仮に、被告Y1社が、腸炎ビブリオ菌を増殖させるような保管方法を採っていたとするならば、被告Y1社が売り渡した本件生うに以外の生うにについても、食中毒の発生等の事故が起こる可能性が極めて高いというべきであるが、乙一ないし八号証によれば、本件生うにを除く全ての生うにについては、これにより食中毒を惹起したとの指摘は一切なされていないと認められることに照らせば、被告Y1社において、腸炎ビブリオ菌を増殖させるような保管方法を採っていたと認めることはできない。また、本件生うには、被告Y1社が買い受けてから、原告X2社に売り渡すまでの間、一本ごとにビニールで梱包されたままの状態であったから、被告Y1社が他の食品に付着していた腸炎ビブリオ菌を本件生うにに付着させた可能性もないというべきである。

ところで、証人Eは、前示一4の認定に反し、原告X2社が被告Y1社から本件生うにを買い受けた際、右生うには冷凍ケースの中ではなく、床の上に置かれていた旨証言するが、通常、生うには、調理等の手を加えずにそのまま食されるものであること、本件事故が発生した七月二九日は夏期であって、腸炎ビブリオ菌の増殖しやすい環境にあったことに照らすと、仮に、右証言のような管理がなされたとすれば、当然、買受人が異議を述べるなどの事態が発生するのが自然であるのに、E自身も、何ら異議を述べるなどしていないこと、E自身、被告Y1社の店舗において、板うには、冷凍ケースの中に入れて販売されている旨の証言をしていること、これらに加え、被告Y1社代表者Bは、その尋問の結果において、そのままの状態で食される生うにについて、右のような取扱いをすることはない旨明確に供述していることに照らすと、右証言はにわかに採用し難い。

したがって、被告Y1社において、本件生うにに腸炎ビブリオ菌が付着し又はこれが増殖するような保管方法を採っていたものとは認められない。

(5) 以上の検討によれば、本件生うにが原告X2社に引き渡された時点において、通常に食した場合に食中毒を誘発するような状態にあった、すなわち食品として欠陥ないし瑕疵があったことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三) したがって、被告Y2社が通常に食した場合に食中毒を誘発するような本件生うにを輸入して流通に置いたとも、被告Y1社が右同様の本件生うにを原告X2社に売り渡したということもできず、これを前提とする原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梅津和宏 裁判官 衣笠和彦 裁判官 瀬戸茂峰)

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